1. 病気の概要
- 肛門周囲腺腫は、肛門の周りや尾の付け根、会陰部に存在する「肛門周囲腺(肝様腺)」から発生する腫瘍です。
- 主に高齢の未去勢オス犬に発生し、雄性ホルモン(テストステロン)依存性であることが特徴です。
- 同じ部位に発生する腫瘍にはいくつかのタイプがあります:
- 肛門周囲腺腫(良性)
- 肛門周囲腺癌(悪性)
- 肛門嚢アポクリン腺癌(別の腺由来・より悪性)
- 今回の「肛門周囲腺腫」は、良性腫瘍で、去勢と手術で治ることが多いタイプです。
2. 症状
- 肛門の周囲、尾の付け根、または陰嚢近くにしこりやイボ状の腫瘤ができる
- 大きくなると出血や潰瘍、排便時の痛みを伴う
- 多発することもあり、肛門を囲むように複数出現するケースも
- 一部は感染や炎症を伴って悪臭を放つ
- 放置すると、**悪性化(肛門周囲腺癌への変化)**することがあります
3. 診断方法
- 視診・触診
- 肛門周囲の腫瘤の位置・数・硬さを確認
- 細胞診(FNA)
- 良性・悪性の判別に有用。典型的な肝細胞様細胞が見られると肛門周囲腺腫が疑われる。
- 組織検査(生検または摘出後)
- 最終診断には病理検査が必要。肛門周囲腺腫か、肛門周囲腺癌かを区別する。
- ホルモン状態の確認
- 去勢の有無が予後や再発に大きく関係する。
- 画像検査(X線・超音波)
- 大型腫瘤や悪性例では、リンパ節・肝臓への転移チェックを行う。
4. 治療方法
外科手術
- 腫瘤の外科的切除が第一選択。
- 小型で単発の場合、切除のみで完治することも多い。
- 未去勢犬では必ず去勢手術を同時に実施します。
- テストステロンを抑えることで再発を防止します。
- 多発例や再発例では、複数回の手術が必要なこともあります。
去勢手術(重要)
- 肛門周囲腺腫の発生にはテストステロンが強く関与しているため、去勢のみで腫瘍が縮小する場合もあります。
- 再発予防には必須の処置です。
放射線治療
- 切除困難な場合に選択されることがあります。
- 良性ではあまり使われませんが、悪性変化例や再発例では有効。
薬物療法
- **抗アンドロゲン薬(雄性ホルモン抑制剤)**が補助的に使用されることもあります。
- 感染や炎症がある場合は抗生物質・消炎薬を併用します。
5. 予後の目安
- 良性腫瘍(肛門周囲腺腫)の場合:
→ 完全切除+去勢でほぼ完治。再発率は極めて低い。 - 去勢を行わない場合:
→ 再発しやすく、数ヶ月以内に再増大することが多い。 - 悪性型(肛門周囲腺癌)への変化があると:
→ 転移の可能性があり、治療難度が上がる。 - 全体として、良性なら治療成績は非常に良好です。
6. 術後フォロー
- 手術部位の感染・出血に注意(排便時の刺激を受けやすい)
- 手術後2週間程度は軟便管理を行う(食事変更・整腸剤)
- 去勢済みなら再発はまれですが、定期的な肛門周囲チェックを推奨
- 再発や新しいしこりを感じたら早めに再診
7. よくある質問(Q&A)
Q1:メスにもできますか?
A1:非常にまれですが発生します。メスではホルモン依存性が低いです。
Q2:しこりを切るだけではダメですか?
A2:未去勢の場合、テストステロンが原因なので、去勢を併用しないと再発しやすいです。
Q3:悪性の肛門嚢アポクリン腺癌とは違うの?
A3:はい、別の腫瘍です。肛門嚢アポクリン腺癌は悪性度が高く、リンパ節転移を起こしやすい腫瘍です。肛門周囲腺腫は良性で、ホルモンに依存します。
Q4:高齢なので手術が心配です。
A4:腫瘍が小さいうちに切除すれば、手術時間も短くリスクも低いです。全身状態を見ながら慎重に麻酔計画を立てます。
Q5:再発を防ぐには?
A5:去勢が最も効果的な予防法です。
8. 飼い主様へのメッセージ
- 肛門周囲腺腫は見た目は派手でも、正しい治療で完治が期待できる腫瘍です。
- 最も重要なのは「去勢+完全切除」。
- 放置すると悪性化や潰瘍化のリスクがあるため、早期発見・早期治療が理想です。
- 手術後の再発を防ぐために、定期的な肛門周囲のチェックを続けましょう。