1. 病気の概要
- 「メラノーマ」は、体を黒くする色素細胞(メラノサイト)から発生する腫瘍です。
- 犬では特に口腔内(歯ぐき・口蓋)、爪・指先(デジタル)、眼・まぶたなどに発生するものが悪性度が高いです。
- 皮膚の被毛のある部位に出るメラノーマは比較的「良性」に近い挙動を示すこともありますが、位置・サイズ・転移の有無によって大きくリスクが変わります。
- 悪性メラノーマは「局所の浸潤」+「リンパ節・肺などへの転移しやすさ」が特徴で、緊急性を要することが多い腫瘍です。
2. 症状
発生部位によって症状が異なります。以下は代表的な例です。
- 口腔内型
- 口の中に黒っぽい腫瘤・しこりがある
- 口臭・よだれ・出血・歯ぐきの腫れ・食欲低下
- 食べにくそうにする、体重が落ちる
 
- 指・爪床型
- 指の付け根・爪の周りに腫れやしこり、出血、爪がゆるむ・変形する
- 足をかばって歩く、跛行する
 
- 皮膚型
- 被毛のある皮膚に黒っぽい斑点や腫瘤ができる
- 色が変わったり大きくなったり、潰瘍化(ただれ)することも
 
- 眼・まぶた型
- 眼の周り・まぶた・結膜などに腫れやしこり、視力低下、目が白く見える・出血など
 
飼い主様から見て「なんか変だな」と気づくサインとしては、「いつものしこりが急に大きくなった/色が黒くなった/血が出ている/歩き方がおかしい/口の中で腫れている」などがあります。
3. 診断方法
- 視診・触診:腫瘤の位置・色・大きさ・出血や潰瘍の有無をチェック。
- 細胞診または組織診(生検):腫瘍から細胞を取って、メラノーマであるかどうかを判定。色素がない(アメラノティック=黒くない)こともあるため、病理診断が重要。
- 画像検査:胸部X線・腹部超音波・CT等でリンパ節転移・肺・内臓への転移を確認。特に口腔内型・指型ではリンパ節・肺が転移先として重要。
- ステージング(進行度評価):腫瘍のサイズ・部位・リンパ節・肺転移などを整理し、治療方針や予後を検討。
4. 治療方法
外科手術
- 腫瘤ができるだけ早く発見されたら「完全切除(マージン確保)」が第一選択。部位・サイズによっては広範囲切除や指の切断を検討します。
- 口腔内型では骨浸潤を伴うことが多いため、手術範囲・麻酔リスク・予後を慎重に判断。
放射線治療
- 手術後の補助療法として、また手術が難しい部位や切除マージンが不十分な場合に用います。
ワクチン療法/免疫療法
- 犬用メラノーマワクチン(例:Oncept)という免疫療法が使われるケースがあります。腫瘍後の再発・転移予防目的。
化学療法
- 単独では効果が限定的ですが、手術+放射線の併用時に補助的に使用されることもあります。
5. 予後の目安
- 悪性メラノーマの予後は発生部位・腫瘍サイズ・リンパ節・内臓転移の有無・切除の完全性によって大きく変わります。
- 例えば、口腔内・2 cm以上・リンパ節転移ありの場合、手術のみでは生存期間が数か月〜1年程度という報告があります。
- 一方、早期発見・転移なし・完全切除可能であれば、1年以上生存例・2年以上のケースも報告されています。
- 全体的には「根治を狙うのは難しい」腫瘍ですが、「時間と質を保ちながら付き合う」治療戦略が鍵です。
6. 術後フォロー
- 術後は3〜4か月ごとに触診・リンパ節チェック・胸部画像検査を推奨。先行例では再発・転移が早期に起きるため。
- 飼い主様には、しこりの再出現・新しい腫瘤・呼吸変化・跛行・元気消失・食欲低下など「早期異常サイン」の観察をお願いしましょう。
- 安静度を保ち、手術部位のケア(口腔内なら食事形態・歯みがき・出血チェック等)を徹底。
7. よくある質問(Q&A)
Q1:しこりが小さくて黒くないのですが、大丈夫でしょうか?
A1:いいえ、黒くないメラノーマもあります。見た目だけで安心しないでください。
Q2:手術すれば治りますか?
A2:部位・転移・切除マージンなどで変わります。早期発見・転移なし・完全切除が条件なら「長く元気に過ごせる」可能性がありますが、「治る保証」は残念ながら低めです。
Q3:メラノーマワクチンって何ですか?有効ですか?
A3:免疫を使った治療オプションで、「再発・転移予防」を目的に使われます。万能ではありませんが、選択肢の一つとして検討価値ありです。
Q4:予防できますか?日光を避けた方が良い?
A4:人で言う日光曝露のような明確な原因は犬では証明されていません。定期的なしこりチェックと早期受診が最も重要です。
Q5:治療費はどのくらいですか?
A5:部位・サイズ・治療内容(手術+放射線)で変わります。
8. 飼い主様へのメッセージ
- この腫瘍は「手ごわい相手」です。けれど、だからこそ“早く・大きくなる前に”気づいてあげることが勝負の分かれ目です。
- 「完治」を保証できる腫瘍ではありませんが、適切な治療を早めに行い、質を保ちながら時間を延ばすことは十分可能です。
- 飼い主様が日常でできる最も効果的なことは「しこり・異変を早く見つけて獣医へ相談すること」です。
- 治療方針・リスク・費用・生活の質について、こちらから率直に説明します。何でも聞いてください。