乳腺腫瘍

1. 病気の概要

  • 乳腺腫瘍は、犬の胸から腹部にかけて並ぶ乳腺(乳房のように、乳頭のまわりの腺組織)から発生する腫瘍です。
  • 特に 未避妊(去勢していない)メス犬に多く、避妊手術を早期に行っていないとリスクがかなり高くなります。
  • 良性のものもあれば悪性(がん)のものもあり、種類・挙動がかなり多様です。
  • 発生年齢は一般に中~高齢(6〜11歳程度が多め)です。

2. 症状

  • 乳腺(乳頭まわり)に「しこり・腫れ・かたまり」ができる。触ると硬かったり可動性が低かったりします。
  • しこりが大きくなると、皮膚の下から出っ張ったり、皮膚が赤くなったり潰瘍化して出血することもあります。
  • 複数の腺に同時に発生することもあり、左右および胸~腹部にまたがる場合があります。
  • 進行してリンパ節転移や肺転移などがあると、元気・食欲低下・体重減少・呼吸困難といった全身症状を伴うことも。

3. 診断方法

  • まずは 視診+触診:乳腺(胸〜腹部)にしこりがないか確認します。
  • 細胞診(FNA)または生検(組織診):細胞診では良性か悪性か判断ができず、腫瘍の性質を調べるために病理組織検査が必須です。
  • 画像検査:胸部X線・腹部超音波などで、転移の有無(肺・リンパ節・内臓)を調べることがあります。
  • ステージング(腫瘍の大きさ・リンパ節関与・遠隔転移):例えば、T1(3 cm未満)~T3(5 cm以上)など。

4. 治療方法

外科手術

  • 乳腺腫瘍では手術が第一選択です。腫瘍を摘出し、できれば「マージン(腫瘍周囲の正常組織)を確保」することが望ましいです。
  • 腺が複数ある場合には、影響している乳腺を連鎖的に摘出することもあります。
  • 避妊手術(卵巣・子宮の除去)を併せて行うことで、再発リスクを下げる効果が報告されています。

補助療法・その他

  • 悪性が確認された場合、術後に化学療法放射線療法、ホルモン療法の検討があります。
  • 日常ケアや生活の質(QOL)維持のためのサポートも重要です。

5. 予後の目安

  • 良性腫瘍で小さい・早期発見の場合:予後はかなり良好で、長期生存例もあります。
  • 悪性腫瘍・大きな腫瘍・リンパ節転移あり・遠隔転移ありの場合:予後は厳しくなります。
  • 目安として、腫瘍の大きさ(T分類)やリンパ節関与(N分類)が予後因子となります。

6. 術後フォロー

  • 手術後は おおよそ3〜4か月ごとの定期検診を推奨します(触診+胸部画像など)。
  • 再発・転移リスクが高い場合は、**初めの1年はより頻回(2〜3か月ごと)**に。
  • 飼い主様による日常チェックも重要:乳腺まわりの触診、しこりの再出現・大きさ変化・皮膚の変化・全身症状(食欲・元気・呼吸)を観察してください。

7. よくある質問(Q&A)

Q1:避妊(早期の去勢)していなかったのですが遅すぎたでしょうか?
A1:早期避妊(発情前)が最も予防効果が高いですが、発情後でも完全に効果がないわけではありません。できるだけ早く検査・管理を始めることが重要です。

Q2:しこりが小さいから様子を見て大丈夫?
A2:小さいからと言って必ず安心できるわけではありません。良性か悪性か、病理的に確認することをお勧めします。

Q3:手術だけで大丈夫ですか?
A3:良性・早期・マージン確保できた場合はそれで十分なことが多いです。ただし、悪性・転移あり・マージン不十分な場合は追加治療を検討すべきです。

Q4:費用はどれくらい?
A4:腫瘍の大きさ・部位・手術の範囲・追加治療の有無で大きく変わります。

Q5:他の犬に遺伝しますか?
A5:明確な遺伝性ではありませんが、ある犬種・血統でやや発生率が高めという報告もあります。ただし「感染」する病気ではありません。


8. 飼い主様へのメッセージ

  • 乳腺腫瘍は「発見して行動を起こせば、選択肢が多く残る病気」です。早期発見・早期治療が鍵です。
  • 手術+適切なフォローができれば、良い結果につながる可能性があります。
  • 悪性の場合でも「今からできること」が多くあります。諦めずに、治療方針・日常ケア・フォローまで一緒に考えていきましょう。
  • 日々のチェックと気づきが、大きな差を生みます。しこりを見つけたらすぐ相談を。