心基底部腫瘍

1.病気の概要

心基底部腫瘍とは、心臓の付け根(大動脈や肺動脈の分岐部周囲)に発生する腫瘍の総称です。
犬では比較的まれな腫瘍ですが、無症状のまま進行することが多いという特徴があります。
腫瘍の増大により心臓や大血管が圧迫されると、心機能障害や心嚢水貯留を引き起こすことがあります。

2.症状

初期には症状がみられないことも多く、進行に伴い以下のような症状が現れることがあります。

  • 元気・食欲の低下
  • 運動不耐性
  • 呼吸が荒い、咳
  • 失神やふらつき
  • 腹水・胸水
  • 心嚢水貯留による急激な状態悪化

※心嚢水が急速に貯留した場合、突然命に関わる状態に陥ることがあります。

3.診断方法

以下の検査を組み合わせて診断を行います。

胸部レントゲン検査

  • 心陰影の拡大、胸水の有無を評価

心臓超音波検査(心エコー)

  • 心基底部腫瘍の確認
  • 心嚢水貯留や心機能の評価

CT検査

  • 腫瘍の大きさ、周囲組織への浸潤の評価

血液検査

  • 全身状態や合併症の評価

※腫瘍の位置の関係から、病理学的確定診断が困難な場合もあります。

4.治療方法

内科治療

  • 心嚢水貯留に対する穿刺・管理
  • 利尿薬や心臓薬による症状緩和

化学療法(抗がん剤治療)

  • 腫瘍の進行抑制や心嚢水再貯留の抑制を目的として行います
  • 使用薬剤は腫瘍の種類や全身状態により選択されます
  • 劇的な縮小は期待しにくいものの、病勢コントロールが得られる場合があります

外科治療

  • 腫瘍摘出を検討する場合もありますが、技術的難易度が高く適応は限られます

放射線治療

  • 腫瘍の縮小や進行抑制を目的として行われることがあります

治療の目的は、根治ではなく症状の緩和と生活の質(QOL)の維持となることが多いです。

5.予後の目安

予後は腫瘍の種類や進行度、治療内容によって異なります。
比較的進行が緩やかな腫瘍では、適切な治療と管理により数か月〜年単位で安定した経過をたどることもあります。

  • 心嚢水の再発や腫瘍の増大により、急変する可能性があります
  • 定期的な経過観察が重要です

6.フォロー・再発管理

  • 定期的な心臓超音波検査で腫瘍サイズや心嚢水の有無を確認
  • 化学療法・内科治療中は血液検査で副作用や全身状態を評価
  • 症状の変化がみられた場合は、早期の再検査が必要です

7.よくある質問(Q&A)

Q1:治る病気ですか?
A:多くの場合、完治は難しく、症状をコントロールしながら付き合っていく病気です。

Q2:治療しないとどうなりますか?
A:腫瘍の進行や心嚢水貯留により、呼吸困難や失神など重篤な症状が出る可能性があります。

Q3:抗がん剤治療はつらくありませんか?
A:犬では副作用を抑えたプロトコールを用いることが多く、体調を見ながら治療を行います。

Q4:急に悪化することはありますか?
A:はい。心嚢水が急速に貯留した場合、突然状態が悪化することがあります。

8.飼い主様へのメッセージ

心基底部腫瘍は、発見が難しく不安の大きい病気ですが、適切な治療により穏やかな生活を維持できる期間を延ばすことが可能です。
治療の選択肢は一つではありません。
その子の性格やご家族のご希望を大切にしながら、獣医師と一緒に最善の治療方針を考えていきましょう。