1. 病気の概要
- 血管肉腫は、血管を構成する細胞(血管内皮細胞)から発生する 非常に悪性度の高い腫瘍 です。
- 体中どこでも発生し得ますが、特に 脾臓・心臓(右房付近)・肝臓・皮下(皮膚もしくは皮下組織) に多くみられます。
- 腫瘍が大きくなると血管構造が脆弱になり、「破裂して大量出血」を起こすことが多いため 急変・緊急事態につながりやすい病気 です。
- 残念ながら「治る」保証が少ない腫瘍で、早期発見・早期対応が極めて重要です。
2. 症状
症状は「どこにできたか」によって大きく変わります。以下、代表的な部位別症状を整理します。
- 脾臓・腹腔内発生型
- 急に元気がなくなる、ぐったりする
- ガムの色が白っぽくなる(貧血)/腹部が膨らむ(腹水・出血)
- 突然倒れる・ショック状態になることもあります。
 
- 心臓発生型(右房など)
- 呼吸が荒い/咳・呼吸困難・運動不能・失神・急変
- 心膜水(心臓を取り囲む液体)が溜まることで「心タンポナーデ」症状が出ることも。
 
- 皮下・皮膚型
- 皮膚や毛の少ない部位に“あざ”のような紫黒色の腫瘤、または赤く腫れたしこり
- 出血しやすい、潰瘍化しやすい/皮下型では体表から出血せず内部で進行することも。
 
- 他の非典型部位(肝臓・肺・骨など)でも発症し、症状はさらに分かりにくくなります。
3. 診断方法
- 問診・触診・視診:元気・食欲・呼吸・腹部膨満・皮膚変化などをチェック。
- 血液検査・凝固検査:貧血・出血傾向の確認。
- 画像検査:
- 腹部エコー・超音波検査(脾臓・肝臓・腹腔内出血の有無)
- 胸部X線(肺転移・胸腔内異常)
- 心臓エコー(心発生型を疑う場合)
- CT/MRI(進行例・手術計画時)
 
- 病理診断・組織診:腫瘤を切除または生検し、腫瘍の性質・転移の有無を確認。FNA(細針吸引)だけでは血液の混入などで確定できないことが多い。
- ステージング:診断後、転移範囲を調べて治療戦略を立てる。
4. 治療方法
外科手術
- 腫瘍のある部位が手術可能な場合、なるべく早く切除することが第一選択です。特に脾臓発生型では「破裂を防ぐためにも早めの脾臓摘出」がよく行われます。
- 心臓発生型の場合、手術が難しいことが多いです。
化学療法
- 手術単独では再発・転移リスクが非常に高いため、術後化学療法の併用が推奨されます。
- 代表的な薬剤は ドキソルビシン(Doxorubicin) など。
放射線治療/緩和治療
- 皮下型や手術不能例、出血コントロールを目的とした緩和的治療として放射線や支持療法が使われます。
支持療法
- 出血が起きている場合:輸血・止血剤・安静確保
- 腫瘍破裂のリスクがある場合:急変リスクを飼い主に説明し、安静管理を徹底する。Vca
5. 予後の目安
- 残念ながら、血管肉腫の予後は総じて良好とは言えません。
- 例えば、脾臓型で手術のみ行った場合の中央値生存期間は約 1〜3か月程度、手術+化学療法併用でも 4〜6か月程度 が報告されています。
- 皮下・皮膚型で局所性、転移なし、完全切除できた場合は予後がやや良く、1年以上生存した例もあります。
- 予後が良くない因子:腫瘍が内臓型(脾臓・心臓・肝臓)、出血・破裂を起こしている、転移がある、手術不能。
6. 術後フォロー
- 術後は 2〜3か月ごとに再診をお勧めします(触診・画像検査・血液検査)
- 出血・腹水・呼吸困難・咳・元気消失など早期異常サインに飼い主が注意を払う
- 安静を保つ期間を設け、激しい運動や飛び跳ねを控える(破裂リスク軽減のため)
- 腫瘍箇所のモニタリング(特に皮下型)を飼い主にも協力してもらう
7. よくある質問(Q&A)
Q1:見つかったらもう手遅れですか?
A1:手遅れとは限りませんが、早く発見・早く対応した方が選択肢も多く、予後も少しだけ良くなります。あきらめないでください。
Q2:手術だけで完治できますか?
A2:内臓型では手術だけでは根治は難しいことが多く、化学療法を併用することが標準的です。皮下型で転移がなければ手術単独で一定期間管理できる場合があります。
Q3:予防できる方法はありますか?
A3:残念ながら明確な予防法は確立されていません。遺伝的傾向や環境要因(皮膚型では日光曝露)が報告されていますが、確かな防御策ではありません。
Q4:出血したらどうすればいい?
A4:突然の衰弱・腹部膨満・呼吸困難・失神などのサインが出たら 緊急処置が必要 です。速やかに動物病院へ行ってください。
Q5:治療費はどれくらい?
A5:腫瘍の部位・転移の有無・化学療法の有無によって大きく変わります。
8. 飼い主様へのメッセージ
- 血管肉腫は「とても手強い腫瘍」です。でも、できることを早く始めることで、少しでも時間と質を確保できます。
- 「完治」の可能性は低めですが、「安定して一緒に過ごせる時間を延ばす」ことは十分に目指せます。
- 出血リスクや急変リスクについて、飼い主様にも“備え”として知っておいてもらうことが非常に重要です。
- 治療方針・期待できること・リスク・費用・日常ケアについて、率直に話し合いましょう。