髄外性形質細胞腫

1. 病気の概要

  • 形質細胞(プラズマ細胞)は、Bリンパ球から分化し「抗体を作る」役割をもつ免疫系の細胞です。腫瘍化すると、骨髄内からだけではなく、軟部組織(皮膚・口腔・消化管など)でも発生しうるようになります。こうしたものを「髄外性(骨髄外)形質細胞腫」と呼びます。
  • 犬では比較的まれですが、全腫瘍の約2.5%程度を占める報告があります。
  • 主に「皮膚」「口腔」「肛門直腸部」などの軟部組織に出ることが多く、骨(骨髄内)から出る「孤立性骨形質細胞腫」とは別扱いです。
  • 特筆すべき点として、皮膚・口腔型では比較的挙動が穏やか/消化管型ではより侵襲的という傾向があります。

2. 症状

腫瘍の位置によって症状が異なります。以下、主なパターンを記載します。

  • 皮膚型
    • 体幹・四肢・頭部などに「丸くて盛り上がったしこり」ができる。しこりは赤っぽかったり、毛が薄かったり、潰瘍化/出血することもあり。
    • 通常痛みを強く出すことは少ない。飼い主が「ボコッとできてるな」と気づくことが多い。
  • 口腔型
    • 口の中(歯ぐき・舌・顎の内側)に腫瘍が出ることがあり、よだれが多い・口臭・出血・食べにくそうにする・顔の片側が腫れるなどが見られます。
  • 消化管・直腸型
    • しこりが直腸や結腸の粘膜上にできると、便が細い・血便・排便困難・直腸脱様症状が出る場合があります。
  • その他、まれではありますが**血液検査上の異常(例えば高グロブリン血症)**が出るケースも報告されています。

3. 診断方法

  • 視診・触診:しこりの有無・大きさ・出血・潰瘍化などをまずチェック。
  • 細胞診(FNA)または組織生検:プラズマ細胞腫かどうかを確認。細胞診では典型的なプラズマ細胞像(偏核、明るい細胞質、など)が見られることがあります。
  • 画像検査:腫瘍の浸潤・骨関与・リンパ節転移・肺転移を調べるため、必要に応じてレントゲン/超音波/CT等が使われます。特に消化管型・骨型の疑いがある時はステージングが重要。
  • 血液・尿検査:骨髄系の病変(例えば多発性骨髄腫)を否定するための血液化学・蛋白電気泳動・尿検査(Bence-Jones蛋白など)を行う場合があります。

4. 治療方法

  • 外科切除:最も基本となる治療。皮膚型・口腔型では、しこりを完全に切除できれば非常に良好な成績が報告されています。
  • 放射線治療化学療法:切除不可・切除マージン不良・骨型・消化管型などでは追加治療を検討するべきです。文献では放射線治療が切除不能例で有効という報告もあります。
  • 支持療法:部位により出血・潰瘍・痛み・機能低下が起きやすいため、それらへの対処(止血・鎮痛・栄養管理)も重要です。

5. 予後

  • 皮膚・口腔型で完全切除できた場合:再発率非常に低く、予後良好です。ある報告では手術単独で90〜95%が治癒に近いと記されています。
  • 一方で、消化管型・切除マージン不良・転移ありのケースでは予後が厳しくなります。例えば直腸型では中央値生存期間が15 か月と報告されているものもあります。

6. 術後・治療後フォロー

  • 手術後は、3〜4か月ごと程度で触診・画像チェック(必要時)を推奨。転移リスク低めの部位では半年〜1年ごとに間隔を延ばすことも検討。
  • 飼い主様が日常できるチェック:
    • 手術部位・切除部位の再発徴候(しこりの再出現・色・形・大きさの変化)
    • 口腔型ならばよだれ・出血・食べにくそうな動作
    • 消化管型なら便の様子・血便・排便困難の有無
  • 切除マージンが不十分・消化管型では、放射線・化学療法開始後のモニタリングも併用検討。

7. よくある質問(Q&A)

Q1:この腫瘍は「がん」ですか?
A1:はい悪性腫瘍の一種ですが、部位・タイプによっては「根治がかなり期待できる」腫瘍です。特に皮膚・口腔型では良好です。

Q2:切ったらもう安心ですか?
A2:切除できてマージンが十分であれば安心度は高いですが、部位・転移・骨関与・マージン不整である場合には経過観察・追加治療が必要です。

Q3:通わせる治療費はどれくらい?
A3:手術のみなら数十万円規模。切除困難/追加治療(放射線・化学療法)を要する場合はさらに費用がかかります。

Q4:他の犬にうつりますか?
A4:いいえ。感染性ではありません。安心してください。

Q5:予防できますか?
A5:明確な予防法は確立されていません。早期発見・しこりを見たら早めに受診というのが現実的な対応です。


8. 飼い主様へのメッセージ

  • 髄外性形質細胞腫は「比較的治しやすい腫瘍」であることを知ってください。特に皮膚・口腔型は手術単独で良好な結果を出せることが多いです。
  • ただし、腫瘍の部位・大きさ・浸潤・転移リスクなど「状況」が治療方針を大きく左右します。
  • しこりを見つけたら「様子を見る」より「診断を受けて、切除できるか判断する」方が安心です。