1.病気の概要
インスリノーマは、膵臓のインスリンを分泌する細胞(β細胞)から発生する腫瘍です。
この腫瘍の最大の特徴は、
血糖値が低いにもかかわらずインスリンを過剰に分泌してしまうことです。
その結果、体は慢性的な低血糖状態になり、特に脳がエネルギー不足に陥ることで神経症状を引き起こします。
多くは悪性腫瘍で、診断時にリンパ節や肝臓へ転移していることも少なくありません。
2.原因
明確な原因は分かっていません。
中〜高齢犬に多くみられ、
大型犬(ボクサー、ラブラドール・レトリーバーなど)でやや発生が多いとされています。
現時点で予防法は確立されていません。
3.主な症状
症状はすべて「低血糖」によって起こります。
- 元気がなくなる
- ふらつき、歩行異常
- 震え
- ぼーっとする
- 反応が鈍い
- けいれん発作
- 失神
特徴的なのは、
空腹時や運動後に症状が出やすいことです。
また、食事をすると一時的に改善することがあります。
症状が「良くなったり悪くなったり」を繰り返す場合も多く、
見逃されやすい病気でもあります。
4.検査・診断
血液検査
低血糖を確認し、同時にインスリン濃度を測定します。
通常、血糖が低下するとインスリン分泌は抑えられますが、
インスリノーマでは低血糖にもかかわらずインスリン値が正常〜高値を示すことが診断の重要なポイントです。
画像検査
- 腹部超音波検査
- CT検査
腫瘍は小さいことが多く、画像で確認できない場合もあります。
そのため、血液検査所見が診断の中心となります。
5.治療
① 外科治療(第一選択)
可能であれば腫瘍の外科的切除を行います。
手術により低血糖症状が改善する可能性があります。
ただし、多くは悪性であるため、
手術後も再発や転移の管理が必要になります。
② 内科治療
手術が難しい場合や転移がある場合には、
低血糖をコントロールしながら生活の質を保つ治療を行います。
- 少量頻回の食事管理
- ステロイド(血糖上昇作用)
- ジアゾキシド(インスリン分泌抑制)
完治を目指す治療ではなく、症状を安定させることが目的です。
③ 化学療法
転移が認められる場合や進行例では、
腫瘍の進行を抑える目的で化学療法が検討されることがあります。
代表的にはストレプトゾトシンやトセラニブなどが報告されていますが、
副作用や適応を慎重に判断する必要があります。
化学療法は「治す」ためというよりも、
病気の進行を緩やかにし、QOLを保つための選択肢となります。
6.予後
インスリノーマは悪性腫瘍であることが多く、
再発や転移のリスクがあります。
- 手術可能例:平均1〜2年前後
- 内科治療のみ:数か月〜1年程度
転移の有無や治療反応性により大きく個体差があります。
7.ご家庭で気をつけること
- 食事を抜かない
- 長時間の空腹を避ける
- 激しい運動を控える
- 発作があればすぐ受診
低血糖発作が起きた場合、
意識がある場合のみ蜂蜜やブドウ糖を口腔内に塗布し、速やかに動物病院を受診してください。
8.飼い主様へ
インスリノーマは「発作の病気」として気づかれることが多い腫瘍です。
しかし本質は、血糖をコントロールしながら長く穏やかに生活を支える病気です。
外科治療が可能なケースもあれば、内科管理で安定して過ごせるケースもあります。
大切なのは、
その子の状態に合わせた治療を選択し、
発作を防ぎながら安心できる時間を守っていくことです。
当院では集学的治療により3年程度生存できた子もいます。
不安な症状があれば、早めにご相談ください。